Selections Q4, 2021
2021年からスタートした、MUTEK.JPのメンバーがインスピレーションを受けた音楽やデジタルアート作品を四半期ごとに紹介していくSelectionsシリーズの第4期目を公開。昨年9月から12月にかけて体験したデジタルアート2作品と音楽3作品を以下に紹介します。
Digital Art
Ikeuchi Hiroto Exhibition
Presented by SAI Gallery, Miyashita Park - Shibuya
日本人アーティストIkeuchi Hirotoの自身にとって大規模となる個展が先日原宿で開催され、これまで見たことのないロボットにインスパイアされたファッション・テクノロジー・アート作品が発表された。
Sci-Fiの美学を取り入れた着用可能なアートである彼のクリエイションは、日本のポップカルチャーとデジタルテクノロジーを完全に融合している。一見すると、彼の作品の半分はサイバーパンクなファッションアクセサリー、半分はプラモやガンプラ、VRヘッドセット、iPhoneなどを使った既製品の集合体であるかのように見える。しかしよく見るとそこは別世界。部品を流用して作られた作品群は、ある種の超精巧な微小宇宙であり、作家の執拗なまでの几帳面さを物語っている。
ポップ、ガジェッド、ネクストレベルなコスプレといった側面が強調されているが、実際のところ彼の創作にはもっとエッジの効いた思想や哲学、ノスタルジー、批評が詰まっている。必見。
SAIでの展示は1月30日(日)まで開催中。彼のインスタグラムでも作品の一部を見ることができる。
Feral File
デジタルアートの展示・販売・コレクションのためのNFTプラットフォーム
昨年からデジタルアート作品を収集するためのNFTプラットフォームがウェブ上に出現しているが、客観的なキュレーションプロセスを経ているものはごく少数である。Feral Fileはアーティスト、キュレーター、コレクターを集め、ファイルベースのアートエキシビションを共同で企画する、包括的なコミュニティ運営型のプラットフォームだ。
クリエイティブコーディング環境「Processing」の共同開発者であるCasey Reasをはじめとする、アーティストとテクノロジストの強力なチームの主導により、おおよそ月1回のペースで広い視野に立ったスクリーンベースのエキシビションが展開されている。クラシックで簡素なプラットフォーム形態の良いところを取り入れたFeral Lifeが提案するユニークなモデルは、飛び込みやすいだけでなく、すべてのプロセスで透明性が確保されているところも素晴らしい。それに誰もがそれを好んでいる。
すでにRefik Anadol、Petra Cortright、Lawrence Lek、Andrew Thomas Huang、Sabrina Ratte、Andrew Bensonなどの卓越したアーティストによる作品を含む、コミッション・エキシビションが開催されている。プラットフォームでは無料のエキシビションを楽しみ、気に入った作品を集めることが可能だ。
Music
Phew
New Decade
Mute
先月東京で開催したMUTEK.JP 2021フェスティバルにも出演していただき、モジュラーシンセや自身の声を用いて、空間的で幽玄な一音一音の重なりから超自然的な世界観を丁寧に紡ぎ上げ、最後はブリープ音やダンサブルなリズムの攻めで会場中を高揚感で包み込むという超絶のライブセットを披露したことも記憶に新しいPhew。こちらはその彼女が秋口にMuteから30年ぶりにリリースしたソロアルバム。本作にはどこか不思議な印象を伴う曲が含まれている。"Into the Stream"は歪んだストリングスの挿し音が異様な雰囲気を際立たせており、"Feedback Tuning"は叫び声と物音が入っているためかホラー劇が目の前で起こっているような臨場感がある。ライブからも感じたのは、声だけではない音そのものの存在感が以前にも増して際立っていることだ。
machìna
Compass Point
東京拠点の韓国人ミュージシャン、machìnaの3rdアルバム。白馬の山小屋に1ヶ月間篭って制作されたという本作は、物理的にも社会的にも孤立することで自分自身と深く対峙し、内面を音に反映するといったアイデアがもとにあり、その音が鏡を介し跳ね返って自身の前に立ち現れ、新たに生まれた軸に沿ってポイントが形成され始めた、という過程を得て生み出された作品だという。彼女のスタイルの特徴である、自身のボーカルとエレクトロニックサウンドの融合はここでも探求されている。"Your Garden"、"Traces"では軽快に付き進むテクノトラックに叙情的で見事な技量の歌声という、一見距離感のある組み合わせが絶妙にマッチしている。"ebame"では声がヒプノティックな展開を助長するというアイデアが新鮮だ。声の鳴り方や使われ方の多様さ、アンビエントからアシッドまで洗練されたテクノの奥深さとの融合が、聴けば聴くほど見えてくる。
Kyoto Jazz Massive
Message From A New Dawn
Extra Freedom
沖野修也と沖野好洋の兄弟によるKyoto Jazz Massiveの約20年ぶりのニューアルバムは、エキサイティングな旅を提示している。ジャズ、ブギー、ソウルといった長年のジャンルに根ざした彼らの2ndアルバムは、かつてないほどフレッシュなサウンドに仕上がっている。ファンキーなグルーヴ、ソウルフルなヴォーカル、エレクトロニックなキック、ブロークンビーツなどの要素が詰まった10曲は驚きとひねりの効いた展開に満ちており、決して退屈させることなく、常にリスナーに挑戦し続ける。