Selections Q2, 2021
今年からスタートした、MUTEK.JPのメンバーがインスピレーションを受けた音楽やデジタルアート作品を四半期ごとに紹介していくSelectionsシリーズの第2期目を公開。音楽4作品とデジタルアート2作品を以下に紹介します。
Music
Chihei Hatakeyama
Late Spring
Gearbox Records
ミュージシャンでありレコーディングエンジニアとしても活動するChihei Hatakeyamaのニューアルバム。彼は多作なことで知られ、これまで自身のレーベルWhite Paddy Mountainを中心に、KrankyやRoom40などから(正確には不明だがDiscogsによると)約80作のアンビエント / ドローンアルバムをリリースしている。本作はアナログ / モジュラーシンセ、エレキ / アコースティックギターなどを使い、トラックごとに楽器を限定して、ほぼ即興演奏の一発録りで制作されたという。なかでも"Spica"はメランコリックなメロディの反復がオルゴールのような儚さを想起させ、"Memory in the Screen"は意識が歪んだまどろみの中へと誘う。広大で美しい情景の広がる"Twilight Sea"も素晴らしい。インスピレーションを受けたというDavid Lynch『Twin Peaks: The Return』のスタイルと東洋思想、タイトルの由来になった小津安二郎『晩春』の日本的美意識がこのアルバムに影響を与えているが、それを知らずともこの作品からは純粋な気品を感じることができる。(参照元:TOKIONでのインタビュー)
Lemna
Mantis 05
Delsin Records
Lemnaがオランダの老舗テクノレーベル、Delsinから初リリースした本作は、同レーベルの「Mantis」シリーズの第5弾を担当したもの。彼女はこれまでHoroをはじめとするレーベルからドラム&ベースを独自進化させた疾走感のあるヘヴィなインダストリアル・テクノやダークアンビエントをリリースしているが、本作「Mantis 05」収録のトラックはそれに比べるとトーンが明るく軽やかだ。とくに深海ユートピアの中をゆっくり進行していくような"Marine Snow Nocturne"は、神秘的なムードが漂うなかヒプノティックなシンセの反復でドラマティックなエンディングを迎える、魅惑的なイマーシヴ・サウンドスケープ作品。"Diffuse Reflection"はポリリズミックで、色んなパーカッシヴなサウンドが一定のルール(空間)の中であちらこちらに飛び交い、不可測が同調する心地良さと、彼女の他の作品でも顕著なじわじわと迫りくる緊張感が見事に融合した遊び心のあるトラック。
* LemnaはMUTEK.JP 2017にビジュアルアーティストのNaoto Tsujitaと共に出演。その時のA/V映像はこちら
UNKNOWN ME
BISHINTAI
Not Not Fun
本作は、やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHIのプロデューサー3人と、グラフィックデザイナー / 映像担当の大澤悠大によって構成されるユニットUNKNOWN MEの4作目のアルバムで、LAのNot Not Funからは3作目のリリース。一貫してアンビエントやニューエイジの楽曲を世に送り出している彼らは、Light In The Attic、RVNG、WRWTFWW、Music From MemoryといったレーベルやVisible CloaksのSpencer Doran、数々の地下カセットレーベルの後押しによってアンビエント / ニューエイジのリバイバルや国産作品への再評価が起こった2010年代の中盤に結成された。"心と体の未知の美しさを探求するイマジネイティブ・サウンドスケープ"をテーマに制作されたという本作は、響きが心地良いユニークなテクスチャーの音の数々が、最小限の構成でそれぞれがもっとも最適にスポットライトを浴びた、甘美な空間の中を漂うジャーニー。夢見心地の情景に響く機械音声、瞑想的反復、非自然的な音が、人工的に仕立て上げられた楽園を思い起こさせる。Jim O'Rourke、食品まつり、MC.sirafu(スティールパン)、中川理沙(コーラス)がゲスト参加した曲も収録されている。
* UNKOWN MEはMUTEK.JP 2018に出演
GOTH-TRAD
PSIONICS
BACK TO CHILL
本作は2016年にGOTH-TRADの5枚目のアルバムとして超限定リリース(USBと12'ダブプレート100枚のみ)された『PSIONICS』が、本人による新たなミックスダウンとリマスターを経て今年3月にデジタルリリースされたもの。筆者は今回Bandcampでリリースされて初めて聴いたのだが、一部のリスナーへあえて届けられていた音源が、今こうしてより多くのリスナーへと解放されたことで、デジタルの再リリース化に伴う大きな価値を見出すことができる。低周波のベースを使った"スローモーション・インダストリアル・ダブ・テクノ"をコンセプトに制作されたという通り、このアルバムは彼のダブステップ、ベースミュージックというイメージを新たな領域へ拡張させるドープで質感の豊かな傑作アルバム。Borisとの共作"Deadsong"、MC Dälekをフィーチャーした"Skin No Longer Scars"も収録されている。なお、2006〜2011年にダブプレート録音された未発表音源を集めたアルバム『MUTATIONS』、2011〜2020年に同じくダブプレート録音されたトラックを収録したダブステップ最新アルバム『SURVIVAL RESEARCH』、EP「Airbreaker VIP」も今年リリースされているので要チェック。
Digital Art
Frances Adair McKenzie & Alisha Piercy
Howe Are You, Island?
Sight + Sound 2021 Festivalのオンラインエキシビジョン「Some Universe - Internet Spaces in a Postdigital World」の一環として公開された『Howe Are You, Island?』は、アーティストのAlisha PiercyとFrances Adair Mckenzieが制作した実験的な短編アニメーションの3部作の第1作目。このウェブ上の作品で、観るものは生物の多種多様性を超えた現実と仮想の領域を彷徨う。この体験は、他の種と環境とのつながりの可能性がまだ模索されていない、推測の未来について問いかけている。入念にキュレートされた以下のグループショーの中で体験することが可能だ。
Sight + Soundへ
* Frances Adair Mckenzieの作品は、MUTEK Montreal 2020のオンラインエキシビジョン「Distant Arcades」、MUTEK.ES+AR Hybrid Edition 2021にて展示
Lawrence Lek
AIDOL (Game Loading Screen) 2021
『AIDOL (Game Loading Screen)』は、ロンドン在住のアーティストLawrence LekのCGIミュージカル長編映画『AIDOL 爱道』(2019年)から派生した作品。3Dレンダリングとビデオゲームソフトウェアを展開した映画は、2065年の”eスポーツ・オリンピック”でのカムバックパフォーマンスを準備している元スーパースターのDivaと、芸術的であることに憧れを抱くAIのGeoとのストーリーを描いている。この映画は数々のエキシビジョンや映画祭で上映され、サウンドトラックはHyperdub Recordsから2020年にリリースされた。この新しいヴァージョン『AIDOL (Game Loading Screen)』は今年の上旬より、新興のグローバルNFT市場にまつわるハイプに批判的な疑問を投げかけるエキシビジョン「Pieces of Me」を通じてオンラインで公開されている。取引は既に終了しているが、「Pieces of Me」では、TRANSFERギャラリーがキュレートしたの他のデジタルアート作品もあわせて閲覧することができる。
『AIDOL (Game Loading Screen)』へ
* Lawrence Lekは2019年のMUTEK_IMG 5で、モントリオール在住の学者Yuriko Furuhataと共に登壇